読んでいる最中は夢中でした。活劇、男儀、勇気、仲間、鍛錬、策略、天命・・・様々な言葉が頭をよぎりましたが、ああ、もてる語彙の少なさ。これ以上、この小説の面白さを表現するだけの言葉は出てきません(それができるくらいなら、作家になってるんでしょうけど)。確かに、「(男が)泣ける」小説でした。古い日本人の感情なんでしょうか。それは間違いないです。けれども、読んでしばらく2,3日経って、「はて。アテルイ陣営の策略がうまく行き過ぎていないか?天が味方をした、ということだったのか。もって生まれた星の下の運命ということ?」という素朴な疑問が。「全部アテルイ達の想定したとおりに物事が運ぶってか?」というような変な気持ちも出てきました。しかし、そんな小さなことはどうでもいいほど、高橋克彦の筆は、私を魅了してやみませんでした。なんでこんなに小説がうまいんでしょうね、この方。ということで、上下で「長かったけど、面白かった」で満天の星です。 火怨 上 北の燿星アテルイ (講談社文庫) 関連情報
表題作他九編の未収録作品が並んでいます。特に表題作は、そのうちの半分を占める中編です。「解説」で、この作品の生まれた経緯が述べられていますが、「日本繚乱」というシリーズの第一作として書かれたもので、その後、掲載雑誌がなくなってしまい一作しか書かれなかったものだそうです。この作品は、秋田県の鹿角市のストーンサークルをテーマに、そこに記憶された創世記時代の物語を描いています。作者得意の作品群ですが、そこには大自然の驚異と人間の微力さが描かれています。そこには、恐ろしいまでの自然の力と美しさがあり、その中で微力ながら知恵で生き抜く人間たちの逞しさがあります。このシリーズの目標は、各県一作だったようですが、当初の構想のまま実現していたら、各県の伝承が物語として蘇り、素晴らしい作品群になったように思います。残念です。 石の記憶 (文春文庫) 関連情報
3つの作品が一本の筆遣いで描かれている。歌麿は絵師を超えた迫力で、どんどん想いを伝えてくる。このシリーズは本当に面白い。 かげゑ歌麿 (文春文庫) 関連情報
傑作です。放送期間が9ヶ月しか無かったことと、第三部の原作が間に合わなかったことが悔やまれます。第一部は何と言っても経清・貞任の暑苦しさが最高! 特に貞任役の村田氏は、他の作品からは想像できない雄々しさ、猛々しさです。また、頼義・義家・吉次・乙那の濃厚な存在感も堪りません。映像面でも、吹雪の中から安倍軍が現れる黄海の戦いなど大河でも屈指の美しさでしょう(戦闘自体は薄味ですが)。第二部はとにかく陰鬱。しかしそれが魅力になっています。真衡・家衡・秀武・武衡ら、これまた濃い人物ばかり。中でも義家の変貌ぶりと、清衡の重苦しさがこれまた堪りません。全編通して音楽も素晴らしく、オープニングでは奮い立ち、エンディングでは切なくなること請け合い。惜しむらくは回数の少なさでストーリーが急ぎすぎな感があることと、女性陣の鬱陶しさ。オリジナルの女性を増やすのは構わないのですが、ドラマの雰囲気を壊しては本末転倒です。残念。 NHK大河ドラマ 炎立つ 完全版 第壱集 [DVD] 関連情報