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健康と病いの語り 前立腺がんを生きる: 体験者48人が語る

書店では、おそらく「家庭の医学」の書棚の1冊として、前立腺に心配事のある人が偶然に見つけて手に取ることになるのだろう。そして前立腺の病気とその病気の検査・治療から細々とした心配ごとの数々、それがリアルに患者の視点で書かれていることに、「こんな本は初めてだ」と驚くに違いない。体験者の目とからだで感じた病気と治療の有様が、短く拾い出され、系統的に整理され、的確にサマライズされている。それもそのはずで、この書籍は、動画と音声で体験者の語りを公開しているネット上のデータベースから拾い出され編集されたものなのだ。それにしてもインターネット上の、だれもが、いつでも、どんな順序でも、どこからでも、そして密かに不安を隠したままでも視聴し、読むことができるものが、果たして書籍で成功するものかと思われたが、見事に成功している。48人の無名の語り手が、あたかも一人娘に語るように、ときに静かに、ときに自嘲気味に、病気体験を、いや人生を語っているのである。その短くエッセンスを切り取られた語りの断片に語り手の人生を感じるとき、アッこれがナラティブだと感動させられた。ナラティブのナラティブたるゆえんは、この個別性と多様性にある。革命にせよ、歴史認識にせよ、白か黒か、正邪善悪によって裁断できる大きな物語をもって語られる時代は終わった。晴れた日に、丸善に出かけて、この1書を現代哲学か現代史の書棚にそっと移し替えておこう。 前立腺がんを生きる: 体験者48人が語る 関連情報




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