大日方傳 ランキング!

大日方傳 あの頃映画 松竹DVDコレクション 「出来ごころ/浮草物語」

観終わって、しみじみと良い映画だと思う。旅芸人一座の人間模様を抒情豊かに描いて比類ない。後年、名声を博してからの作品と比べサイレント時代は、映像テクニックに頼らず己の感性に沿って正直に作られているような印象が強い。それは観る側に登場人物の心情がすんなりと入り込み、より一層この映画を味わい深いものにしている。喜八が公演で訪れた田舎町には実の息子(信吉)が居り、(おかやん)は小料理屋を営んでいるが、公務員の父親は死亡したと嘘を教え信吉を育てている。その事実を知った一座の看板女優(おたか)は妹分の女優(おとき)に信吉を誘惑させ喜八との親子関係を裂こうとするが、そそのかした事が露見し結局は喜八から縁を切られる。そうこうするうちに一座の経営状態は次第に悪化し始め、遂に解散の憂き目にあう。ここからがこの映画の真骨頂である。信吉と(おとき)はあろうことか相思相愛の間柄に発展し、逢瀬する関係に陥っていたが、(おかやん)の小料理屋で喜八と遭遇したことで、遂に信吉は本当の父親を知る。ここで当事者同士が理性を失い、相手の人間性を貶めるような事まではしない。自己主張はしても最後は相手の立場を尊重するのだ。そこには皆自分に何らかの非がある事を知っており、その根底に旅芸人という恵まれない職業への憐みや女性が社会的弱者だという事を充分に理解している。このような環境では互いに労わり合いながら生きていく他無いのだ。喜八は苦しい中で生活費を捻出して、(おかやん)の家計を助けてきた事を信吉が理解した上で、(おとき)を残し信吉を支えるように伝えて去って行く。ラストは縁を切ったはずの(おたか)が駅に居り、また2人が腐れ縁のように寄り添って生きていく道を選んで映画は終わる。【雑感】人間関係の縺れと人情の機微を情感豊かに演出し、浮世の儚さを表現して余りある見事な幕切れ。小津は生涯独身を貫いている。家庭を持たない男が昭和9年に30歳という若さで、このような人情ドラマを作ってしまう能力に驚嘆する。もしかして小津はサイレント時代の作品の方が良いものが多いのかも知れない。 あの頃映画 松竹DVDコレクション 「出来ごころ/浮草物語」 関連情報

大日方傳 上海陸戦隊 [東宝DVD名作セレクション]

昭和14年東宝映画。当時帝国海軍の全面的協力を得て昭和12年の所謂上海事変で帝国海軍陸戦隊の孤軍奮闘ぶりを描いたもの。監督は熊谷久虎、主演は大日方傳。映画の大半は、中国軍と衝突が始まって、最前線に位置する陸戦隊のある中隊の戦いの描写に終始する。結論から言うと本作は凡庸な戦争映画と言うしかない。演出、キャメラワーク、そして中隊長を演じる大日方傳のお芝居もイマイチである。画質もボケ気味だし、音声も聞きにくい。具体的な戦況は各小隊から有線電話で大日方中隊長に伝えられた内容でしかわからないし、何千人もの中国兵が攻めてきたと言ってもそれを映像で捉えているワケでもないので、映画としての説得力および表現力は貧弱である。しかも戦闘シーンには使い回しのカットが多数あるし。あと本作にも当時19歳の原節子が出演している。彼女の役どころは、日本軍に保護された中国人の避難民のひとりで、日本軍に反抗的で野性的な少女、といった感じであるが彼女の出番は少ない。彼女の写真集を見ると、本作のスチール写真としてチャイナ服に身を包んだエキゾチックなお姿が載っていることが多い。それで長い間一体どんな役を演じているのかと妄想が膨らみ放題であったが、拍子抜けであった。しかし他人に悪態をついたり、唾を吐きかけたりする原さんのお姿は貴重といえば貴重。何はともあれ、あの金子光晴が最晩年の大著の自伝に三分の一を費やした、当時の魔都上海の映像をたくさん見ることができる貴重な映画でもあるし、戦前の邦画ファンと原節子のファンであればこの値段ならば、お買い得でしょうか? 上海陸戦隊 [東宝DVD名作セレクション] 関連情報




Loading...


ここを友達に教える